たった一つの問題
当たり前のことだが、語学を習得すると、現地の友人ができ、生活を楽しめる。私の語学の修行はまだまだ発展途上であるが、それでも、長期滞在先のアメリカやフランスで多くの友人を得た。
南仏にマノスクという人口が1万5000人ぐらいの古い町があり、そこに7年間滞在した。旧市街のレストランで食事をしていると、初老のオーナーが話しかけてきて、フランス語が分かる日本人は珍しかったこともあり、色々と話をした。聞くと、オーナーには、息子がいて、最近、私の家の近くにレストランを開いたのだという。そこでその息子さんのレストランに行って食事をした。その後、初老のオーナーに会ってその話をしたところ、感想を聞かれた。
私「食事はうまいし、内装はキレイだし、接客は丁寧だし、いいレストランだ。」
ここまで聞いて、自慢の息子さんのレストランを褒められたものだから、オーナー夫婦はご満悦の様子。
私「だけど、残念なことに、たったひとつだけ問題がある。」
ご夫婦、ビックリして、真顔になって「そのたった一つの問題ってなに?言ってくれ」
私「それがね、予約を取るのが大変で、苦労したのですよ」
これを聞いてオーナー夫婦、それから、まわりで話を聞いていたオーナーの友人たちは、爆笑。オーナー夫婦は、再び満面の笑顔。
それから、息子のレストランや、自分のレストランで私の姿を見かけるたびに、ニコニコしながら大きなグラスにワインを並々とついでご馳走してくれた。
「面白い日本人がいてね、こんな話をしていたよ」と、友人や客たちに自分の息子の自慢をしているのが目に浮かぶようだ。