語学、翻訳、海外生活

語学、翻訳、海外生活に関する記事が多いですけれども、そのほかの話題もあります。今日明日の仕事や生活に役立つかどうかは分かりませんが、「面白い」と思って下されば、書き手冥利に尽きます。

アテスエとガズンタイ

私には、「大きいクシャミ」という悪癖がある。いや、正確には、あった、というべきか。クシャミしそうになると、大きく息を吸い込むものだから、クシャミがとんでもなく大きくなるのである。高校時代には、授業中にこれをやらかしたせいで、「授業をバカにしている」と誤解されて、先生に睨まれたこともあった。たしかに紳士的ではない。仕事の関係で、アメリカや、フランスに長期滞在し、ドイツやイギリスには、何度も短期出張した。行った先々で、電車などの公共交通機関に乗っている間、このクシャミの特大版をやってしまった。そうすると、アメリカやイギリスでは、Bless you !と、何人もの見知らぬ人から声をかけられた。これは、God bless you !(神様の祝福がありますように)という意味。フランスではA tes suets(発音は「アテスエ」、意味は「あなたが救われますように祈ります」)、ドイツではGesundheit(発音は「ガズンタイ」に近い。意味は、「健康でありますように」)。ザックリ言うと、どれも、「お大事に」という意味だ。これが、電車の中だと、目の前の人から、遠くの人に、まるでリレーのように伝搬していくのである。なんという心優しい、微笑ましい習慣だろう。

しかし、昨今のコロナ蔓延のなかで、公の場で、クシャミの特大版を披露しようものなら、冷たい目で見られる、あるいは、電車の外につまみ出されかねない。そこで一計を案じた。クシャミが出そうになったら、息を吸いたいのを我慢して、反対に、息を吐くのである。それも、もう吐く息がない、という限界まで息を吐くと、「クスン」と小さい音にできる。どうやら、人様の迷惑になることは避けられそうだが、アテスエや、ガズンタイのリレーが聞けなくなるのは、若干淋しいものがある。